IP電話のシステムや、実際に受発信に用いるソフトフォン/ハードフォンについての説明の中で「IP電話」や「IPフォン」という単語とともに「SIP(シップ)フォン」という単語が出てくることがあります。
「SIPフォン」と聞いて、なんとなく「IP電話のことかな?」「IP電話の仲間なのかな?」とは想像がついたとしても、はっきりとした定義がわからないまま話が進んでしまうということもあるかもしれません。
ここで出てくる「SIP」は、IP電話の受発信を支える、とても大事な仕組みのひとつなのです。
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SIPフォンとIPフォンは、言葉の指す範囲が違う
まずは「IP電話」「IPフォン」と「SIPフォン」、それぞれの言葉の意味とご紹介しましょう。
「IP電話」や「IPフォン」はVoIPによる音声通話全般を含む
「IP電話」や「IPフォン」といったときには、音声データをIPネットワーク上でやりとりして通話を可能にする技術「VoIP(ボイプ、ボイップ)」を用いたサービス全般を指します。
※VoIPについて紹介した過去記事は
[こちら]
電話番号が発番されるサービスはもちろんですが、発番されなくても、PCやスマートフォンのアプリ上で音声通話を実現しているのであれば、広い意味での「IP電話」に含めることができます。
ただし一般的には、電話番号が発番されるものを「IP電話」、電話番号が発番されずにアプリで通話できるものは「インターネット電話」と(なんとなく)呼び分けられているのが現実です。
SIPフォンの意味①:呼制御を行うプロトコル「SIP」を用いたIP電話システム
では「SIPフォン」とは、なんでしょうか。大きく分けてふたつの意味があります。
ひとつ目の意味は、
「呼制御を行うプロトコルである“SIP”を用いたIP電話システム」です。呼制御は「シグナリング」とも言われ、通話の前後の「電話をかける」「相手を呼び出す」「電話を切る」といった部分の話だと理解しておけば大丈夫でしょう。
SIPフォンの意味②:SIPに対応したソフトフォンorハードフォン
もうひとつの意味は
「SIPに対応したソフトフォンやハードフォン」です。中でも、ハードフォンの方を指して「SIPフォン」と呼ぶケースが見受けられます。
ハードフォンは見た目こそビジネスフォンのように見えますが、IPネットワークに接続ができる、立派なネットワーク端末です。ソフトフォンとハードフォンの詳細については、下記の関連記事を参照してください。
「IP電話の電話機=SIPフォン」ではないのがポイント
ところで、IP電話の呼制御に用いられるプロトコルは、SIPだけではありません。例えば「H.323(エイチさんにいさん)」というプロトコルも、IP電話の呼制御に使われる規格です(現在では主にTV会議システムで使われています)。
近年はSIPがよく用いられていることは確かですが、IP電話の電話機(ソフトフォンやハードフォン)=SIPフォンとは限らない、ということは覚えておきましょう。
少しだけ補足すると、H.323もSIPも「呼制御を行う」という点では同じ役割を担っていますが、その成り立ちは大きく異なっています。
H.323は電話の技術(=ISDN用の規格)を基に作られており、SIPが普及する前からテレビ会議やIP電話の呼制御プロトコルとして広く利用されていました。しかし、構造が複雑なので、開発側からすると扱いにくい面があります。
一方のSIPは、H.323より少し遅れて標準化された規格です。SIPはインターネットの技術を基に作られており、比較的シンプルで、ネットワークの技術者・開発者にとって扱いやすいというメリットがあります。インターネット技術の発達や開発者の増加、開発環境の充実などが相まって、この20年ほどの間に主役の座に躍り出ました。
今では、多くのテレビ会議システムやIP電話がSIPを採用しています。一方のH.323がテレビ会議システムの分野で根強いのは、SIPより先に広まった既存テレビ会議システムとの互換性が重視されるからです。
SIPの役割
ここからは、SIPの役割についてもう少し具体的に紹介します。
音声データがあっても「呼制御」をしないと「電話」ができない
IP電話では、音声データを「パケット」と呼ばれる小分けにしてIPネットワーク上でやりとりをしますが、このとき「RTP(Real-time Transport Protocol)」というプロトコルが使われます。RTPはとてもシンプな仕組みで、リアルタイムかつ高速にデータをやりとりするには適しています。
しかし、RTPのパケットはあくまでも個別のデータであって、データの宛先と通信を確立したり、切断したりといった役割は持っていません。電話で言えば、「電話をかける」「相手を呼び出す」「電話を切る」といった呼制御はできません。
そこで、SIPの出番です。SIPが、IP電話でRTPのパケットによって音声を送受信するにあたって、呼制御を担っています。
SIPによる呼制御の流れ
いよいよ、SIPによる呼制御の流れを見ていきましょう。
IP電話の電話番号とIPアドレスを記録し、紐づける
SIPでは、ソフトフォンへのログインや、ハードフォンの起動などのタイミングで、その端末の「電話番号」や「IPアドレス」と言った情報が「SIPサーバー」に送信されます。これは、電話の受発信ができるようになるための下準備と言えます。
ちなみにSIPの世界では、各IP電話端末を「ユーザーエージェント(User Agent、以下UA)」と呼びます。
SIPサーバーの中にはデータベースがあって、ユーザーの電話番号やIPアドレス等の情報が登録されています。この情報があるからこそ、UAである端末から電話をかけた際に、IPネットワークに繋がっている相手を呼び出すことができるのです。
SIPによって呼制御を行い、端末間の通話を実現する
「Aさん」が「モック」にSIPで電話をかけるという想定で、話を進めましょう。
(1) Aさんがモックに電話をかけると、モックへの接続要求がSIPサーバーに送られます。SIPサーバーは、データベースからモックのIPアドレス等を見つけ出し、モックへ接続要求を転送します。モックのIP電話端末で呼び出し音が鳴ります。
(2)モックが電話に出ると「OK」という信号を返します。モックからの「OK」の信号が、SIPサーバー経由でAさんに伝わります。
(3) Aさんがモックからの「OK」の合図を受け取ると、Aさんからモックに確認の信号が送られて、Aさんとモックとの間で接続が確立します。
(4) Aさんの端末とモックの端末とで、音声データを直接やり取りします。つまり、通話をします。
(5) モックが電話を切ると、切断の信号がSIPサーバー経由でAさんの端末へと送られます。
(6) 切断の信号を受け取ったAさんの端末からモックの端末に「OK」の信号が送られて、通話が終了します。
ざっと、このような流れになります。
(4)の通話では、UAである端末どうしで直接音声データのやり取りをしています。繰り返しになりますが、SIPは通話の前後で呼制御を担っているのです。
今回は「SIPフォン」という言葉をとっかかりにして、SIPによる呼制御を行うIP電話について説明していますが、現実には、IP電話からメタル回線のPSTN(公衆交換電話網、公衆網)に接続して外線の受発信を行う必要もあります。これは、弊社・ビーウィズ株式会社が提供するコールセンターシステム・クラウドPBX「Omnia LINK(オムニアリンク)」でも、同様です。
SIPとPSTNとの接続などのより詳しい内容については、別の機会を設けてご紹介できればと思います。
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今回のまとめ
SIPフォンという言葉の意味から、SIPによるIP電話の通話まで、一気に紹介しました。難しい単語も多く、お腹いっぱいという方もいるかもしれませんが、最後に要点を箇条書きでお伝えしましょう。
・SIPフォンはIP電話の一種だが、IP電話のすべてではない
・SIPとは、IP電話の「電話をかける」「切る」といった呼制御を行うプロトコル
・「SIPフォン」と言ったときには、主に次のふたつの意味がある
└(1) 呼制御に “SIP”を用いたIP電話システム
└(2) SIPに対応したソフトフォンやハードフォン(とくにハードフォンを指すケースが多い)
・SIPでは、SIPサーバーがIP電話の電話番号とIPアドレスを記録し、紐づける
・呼制御はSIPが担い、通話はIP電話端末どうしが直接行う
冒頭にも書きましたように「SIPフォン」という言葉は、やや定義があいまいなままミーティングの等で使われるケースが見受けられます。コミュニケーションを円滑にして、行き違いが起きないようにするためにも、(SIPに限ったことではありませんが)言葉の定義を明確にしておきたいものです。